おぼえがき

勉強したこととか人に話したこととか

ある数学書のAmazonレビューに対する苦言

(注) これは数学そのものを対象にした記事ではありません.これを書いているときの私は非常に感情的になっていたため,客観性がない可能性があります.また,この記事は2019年2月8日時点の内容です.

 

 

私が高校生の時にゼミを見ていただいた某I先生が共著者となっている本に対して書かれたAmazonのレビューが非常にお粗末だった。その本は今絶版で入手困難であるためこんなことを書く必要はないかもしれないが,どうしても先生が書かれた部分の評価に納得いかないので以下に私目線のレビューを書いておきます.

 

以下がそのリンクになります.

 

多変数複素解析

多変数複素解析

 

 

I先生が書かれた部分は後半の関数解析的な話の部分である.そこの部分に対するレビューは

関数解析については, もはやその入門すら兼ねている.」

「バナッハ空間とヒルベルト空間については, 関数解析の本でも触れられることが少ない, 商空間のことまで書かれてある.」

だけだそうです.どう考えてもちゃんと読んでいるとも思えない.

 

というわけで,私がちゃんとレビューを書いておこうではないか!!!

 

 

まず,「第5章 バナッハ空間と有界線形作用素」では30ページに満たないなかで関数解析の必要最低限のことが解説されている.必要最低限と言っても,ノルム空間の定義からHahn-Banachの定理,開写像定理,閉グラフ定理,Banach-Steinhausの定理まで書いてあり,さらに,Hilbert空間に関することは定義からRieszの表現定理まで書いてある.これらは次の章の主題であるスペクトル写像定理のための必要最低限の準備になっている.この部分は証明も丁寧であるので,関数解析を道具として使う人がショートコースとして読む分にはよいと思う.Conwayの本,黒田先生の本,伊藤-藤田-黒田先生共著の本などではHahn-Banachの定理や所謂Three Fundamental Principlesが割と後のほうに配置されているが,この本は30ページ弱にまとめられているためこの部分はある意味使い勝手が良い.ただ例はやはり多くは挙げられていないが,紙数の問題と次の章に必要なものを考えると仕方ないとしか言えない.余談であるが,例として有界解析関数のなすBanach空間(環)が挙げられているあたりI先生らしいなぁと思う.

 

「第6章 バナッハ空間値正則関数とその応用」のテーマは関数論を作用素に応用することである.§1はBanach空間に値をとる正則関数が1変数の場合と同様にCauchyの定理,一致の定理,Liouvilleの定理,Taylorの定理などが成り立つことを有界線型汎関数とHahn-Banachの定理を用いて1変数に帰着させることで示している.§2では作用素のスペクトル,作用素の正則関数への代入などの話題からそれらの応用としてのある種の作用素が非自明な不変部分空間を持つことなどを示す.§3では局所スペクトル写像定理を示すことが目標である.局所スペクトル理論に触れている文献こそ珍しいと思う.

 

本のタイトルが多変数複素解析なので,せっかくなら合同スペクトルなどを導入してShilovの冪等元定理などを紹介するのもよかったと思うが,残念ながら一般のBanach環に多変数複素解析的手法を導入する部分は書かれていない.しかし,関数論が作用素論などに応用される様子はいきいきと感じられると思う.

 

 

これでこの本の関数解析への応用の部分のレビューは終わります.この章以前の部分はちゃんと読んでいないので内容に言及するのは避けます.また,最後の章の弱楕円型特異点の話は何一つ理解できなかったのでこちらも言及しません.最後に,I先生は昨年10月にご逝去されました.ご冥福をお祈りします.